2016年12月15日

アメリカ大統領選2016(3)

地域とともに活躍する川村学園女子大学





3.なぜトランプが勝ったのか




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今回の選挙では当初泡沫候補だとされていたトランプが勝利しました。彼が勝った要因とは何でしょうか。

選挙結果を見てみると、トランプは激戦州(swing states)といわれる10州のうち、6州で勝利しています。特に、1964年以来50年間、その勝者が13回連続で大統領になっているオハイオ、また、2000年の選挙で勝敗を分け、ヒスパニック系有権者が多いためにクリントンに有利だとみられていたフロリダでトランプが勝利したことは大きかったといえます。また、ペンシルバニア、ウィスコンシン、ミシガンという30年近く民主党が勝利し続けてきた州でもトランプは勝利を収めています。




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CNNの出口調査からどのような層がトランプを支持したのかを見てみましょう。人種別では、非白人は圧倒的にクリントンを支持していますが、白人はトランプ支持が多数派です。また、女性がクリントンを支持する一方で、男性はトランプを支持しています。年齢別では、44歳以上の半数以上がトランプ支持に回りました。




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一方、こちらの表では、4年前と比べて個人の経済状況が悪いと思っている人、また、国の進んでいる方向が間違っていると思っている人の大多数がトランプに投票していることがわかります。これらの結果をまとめると、トランプは、4年前と比べて経済状況が悪化していると考える白人の中高年男性を中心に支持を集めていたことがわかります。



アメリカは貧富の差が大きい国だというイメージがありますが、最近はますますその格差が増しています。これは、経済のグローバル化が進んだ結果、大量生産の機能が国外に移り、一部のエリートが得ることができる企画、研究、開発などの知的な職種しかアメリカには残っていないからです。つまり、アメリカ国内が空洞化しているのです。中でもその影響を受けているのは、過去にミドルクラスとしてアメリカの繁栄を享受した一方で、現在はその地位からこぼれそうになっている白人中高年の賃金労働者です。政治もメディアもこれらの層を取り上げることはありませんでした。



今回の選挙で激戦となった州、あるいは民主党地盤の州のいくつかは、ラストベルトと呼ばれる、斜陽産業が集中する中西部から東部にかけての工業地帯にまたがっています。これらの地域の多くの産業は、第二次大戦後製造業で栄えていましたが、経済のグローバル化によって空洞化が起こっており、人口減少率も高いです。前述の白人中高年の賃金労働者の怒りがこれらの地域のトランプ支持率を押し上げたのでしょう。

また、トランプが声高に訴えている反移民の姿勢も、白人労働者に魅力的に映っているようです。アメリカでは年々白人の比率が低下しています(2016年は全体の68%)。一方、ヒスパニック系は増加しており、白人労働者は移民(特に不法移民)に職を奪われる脅威を強く感じています。トランプが述べた「メキシコ国境に壁を作る」という主張は、不法移民に苦しめられる白人にとって受け入れやすい主張であるようです。

さらに、トランプを支持した人たちに共通してみられる態度は反エスタブリッシュメントです。エスタブリッシュメントというのは既得権益層、いわゆるワシントンのエリートを指します。この半世紀の間で、アメリカの経済は成長し続けてきましたが、労働者階級に実質的な恩恵はなく、貧富の差がますます広がるという結果となりました。これはワシントンで政治に携わる人々が労働者の利益を代表する者ではないからだという思いを白人労働者は強く持っていたようです。トランプの集会で繰り返されていた“Drain the swamp of Washington!”というスローガンは「ワシントンのヘドロを掻き出せ!」という意味です。

一方、トランプは政治経験も軍人の経験も全くない初の大統領になります。これまでの政治とは異なる方向にかじを取ってくれるとの期待がトランプを支持する要因のひとつだったといえるでしょう。



次回はなぜクリントンが負けたのかについて考えてみたいと思います。


(4)につづく
(画像はすべてWikipediaのパブリック・ドメインのものを利用しています)


文学部 国際英語学科 講師 倉林直子




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2016年12月08日

アメリカ大統領選2016(2)

地域とともに活躍する川村学園女子大学





2.大統領選挙の制度

今回は大統領選挙の制度について説明します。 

今年の大統領選挙では、トランプが勝利しましたが、全体の得票数はトランプ46.6%、クリントン48.1%で、クリントンの方が多く票を獲得しています(Real Clear Politics)。なぜこのようなことが起こるのか、そこにはアメリカの大統領選挙独特の選挙人制度というものがあります。

総理大臣を国会議員が決めるという制度を持つ日本人からすると、アメリカの大統領は直接選ばれているような印象がありますが、実際、アメリカの大統領選挙は間接選挙です。厳密にいえば、11月の一般選挙で、国民は大統領を直接選んでいるのではなく、自分たちの代わりに投票する選挙人を選んでいるのです。ここで選ばれた選挙人が12月に大統領に直接投票することによって、その勝者が正式な次期大統領となります。

選挙人の数は州ごとに、その人口に基づいて決定されます。例えば、人口が多いカリフォルニア州では55人の選挙人が割り当てられています。それに対し、ワイオミング州のような人口が少ない州で割り当てられている選挙人の数はわずか3人です。50州全体の選挙人の数は538人で、これは各州の連邦議会上院・下院議員の合計と同じです。

選挙人は、大統領候補を擁立している党すべてがそれぞれの州ごとに選挙人を登録します。例えば、カリフォルニア州であれば、共和党も民主党も、そして第三政党もみな55人の選挙人を用意します。ここで登録された選挙人はそれぞれの政党の擁立する候補者に投票することを誓約しています。まれにその約束を破り、別の候補に投票する選挙人もいますが、数が非常に少なく、11月の選挙結果が覆ったことはありません。

11月の一般投票では、大統領候補の名前を選びますが、ここで多数派となった大統領候補が属する政党の選挙人が12月の投票に臨む権利を得ることとなります。

ここでもう1つ理解しておかなくてはならないのは、「総取り方式(Winner-take-all)」です。これは各州の最高得票の候補者がその州に割り当てられた大統領選挙人をすべて獲得できるという制度です。僅差であっても勝ったほうがすべてを取り、負けたほうは選挙人0になります(メイン州とネブラスカ州では比例割り当て方式)。

例えば、今年の大統領選挙で、接戦となったペンシルバニア州でのそれぞれの得票率はトランプ48.8%、クリントン47.6%でした。パーセンテージでは1.2%の僅差でしたが、この州に割り当てられている選挙人20人はすべてトランプのものになります。すなわちペンシルバニア州では、共和党が登録した選挙人20人が12月の本選挙に臨むことになるのです。

今回の大統領選挙では、接戦州と言われていた州のほとんどで、トランプが僅差で勝利しました。結局、トランプは306人、クリントンは232人の選挙人を獲得し、トランプが勝ちました。これが、冒頭に述べた、得票率が勝敗に反映しなかった理由となります。

得票率が低い候補者が大統領になった例として有名なのは、2000年のジョージ・ブッシュとアル・ゴアの選挙です。得票率ではブッシュ47.9%、ゴア48.4%で、ゴアの勝利でしたが、選挙人はブッシュが271人の選挙人を獲得し、266人の獲得にとどまったゴアに勝利しました。



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ジョージ・W・ブッシュ(2001‐2009)



今回の選挙でトランプが勝利したことで、選挙人制度が見直されることになるかもしれません。


次回はトランプが勝利した理由を考えてみたいと思います。


(3)につづく
(画像はすべてWikipediaのパブリック・ドメインのものを利用しています)


文学部 国際英語学科 講師 倉林直子





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