2014年11月11日

森林資源の活用法(3)

地域とともに活躍する川村学園女子大学





多様な森林資源のさまざまな活用法(3)


3.森の香りと植物の葉の効能

1980年代前半に「森林浴(Forest bathing)」という語が使われ始めました。森林浴は、林野庁が「森林浴構想」を立ち上げた際に、日光浴、海水浴になぞらえて作った造語です。「新鮮な森の空気を浴びて自然にとけ込み、健康づくりをしよう」というのが森林浴です。

2004年に林野庁は森林浴構想を発展させ、「森林セラピー構想(Forest therapy)」を打ち出しました。「森林セラピー」は森林浴の効果を科学的に解明し、心と身体の健康に活かそうというものです。

2004年以降、全国の市町村を中心に、「森林セラピー基地」・「セラピーロード」として認定を受ける事業が開始され、現在、北海道から沖縄県まで全国で50ヶ所を超える森が森林セラピー基地・セラピーロードとして認定されています。「森林セラピー基地」とは、リラックス効果が森林医学の面から専門家に実証され、さらに関連施設等の自然・社会条件が一定の水準で整備されている地域のこと、「セラピーロード」は、同様の科学的検証がなされた20分以上の散策ができる散策路のことです。森林セラピー基地としては、和歌山県高野山や長野県信濃町の「癒しの森」などが認定されています。

森林のリフレッシュ効果は、樹木が放散する香り成分「テルペン」の働きによります。森林内のテルペン濃度の測定は、空気中の揮発性成分を選択的に捕集する吸着剤を詰めた吸着管を設置し、動的にポンプを用いて空気を吸引することでテルペンを濃縮・採取することで行います。森林で採取したテルペン類を熱脱着装置で吸着剤から脱着させた後、GC/MS(ガスクロマトグラフ/質量分析装置)という機器で同定・定量します。

森林内の香り物質の濃度は、季節、一日のうちの時間、気象条件(気温・天候)、森林内の位置によって異なります。季節では冬よりも夏の方が高く、一日の中では午前の方が午後より高くなります。また、晴れた日は曇りや雨の日よりも高くなります。傾斜地の森林では、中腹>頂上>麓・林縁となり、林縁から50〜100m入るとほぼ一定の濃度になります。

夏は光合成が盛んなことから、テルペン放出量も高くなります。また、午前より午後の方が気温が高く、テルペン放出量も高くなると考えられますが、午後は拡散も盛んになるため、日中のテルペン濃度は低くなります。泊りがけで出かける場合は、早起きして早朝に森林浴するのが効果的と言えます。

森林浴の効果は樹木が放散するテルペンだけに拠るものではありません。ストレスを和らげる森の静かな雰囲気、目に優しい緑の景観や風景、虫や鳥の声、騒音防止作用など、いくつかの作用の複合的な効果に拠るものです。自然が奏でる小鳥のさえずりや小川のせせらぎなどの音環境は、人間の快適性をもたらすと言われています。

森林セラピーの科学的な解明の一例を紹介しましょう。森林総合研究所の香川らの報告(平成21年度森林総合研究所研究成果選集)には、都内の大学病院の女性看護師13名を被験者にした森林セラピー基地での散策がもたらす健康・快適性増進効果が報告されています。即ち、2日間の森林浴により、被験者の尿中のストレスホルモン(アドレナリン)が減少するとともに、NK細胞活性が増大することが示されました。NK細胞とは白血球内にあるナチュラル・キラー細胞のことで、がん細胞やウィルスを攻撃して殺傷する役割を持ちます。従って、森林浴は女性の免疫機能を高める効果があることが分かりました。

森の香り成分(テルペン)は水蒸気とともに蒸発し易い性質があり、これを利用して植物から取り出すことができます。スギやヒノキの枝葉に水を加えて熱すると、水蒸気に交じってテルペンを採取することができます。この方法を水蒸気蒸留と言い、水蒸気蒸留で得られるテルペンを含む油分を精油(Essential oil)と言います。

精油は多くの針葉樹葉やユーカリ、クスノキ等の広葉樹葉から採取できます。日本の樹木で最も精油含有量の多い木はトドマツ(北海道モミ)であり、“石油のなる木”と称され精油含有量が多いことで知られるユーカリ類にもひけをとりません。トドマツの乾燥葉100g当たりの精油含有量は8.0mlであることが確かめられています。

排気ガスなどから出る環境汚染物質である二酸化窒素は、我々が日常吸っている空気に微量ながら含まれています。二酸化窒素は活性酸素であり、様々な疾病の原因になります。トドマツ葉の精油は二酸化窒素の除去能力に優れており、空気浄化剤として商品化されています。

トドマツの葉に含まれる香り成分(精油)が環境向上資材として利用されていることを上述しましたが、植物の葉は人間にとって有用な効能を示すものが多く、日常生活でも様々な形で活用されています。

クマザサは高さが1〜2mになる大型のササで、葉は長さが20cm以上、幅が4〜5cmになるイネ科の植物です。葉に含まれるフェノール類や酸類が殺菌・防腐効果を有することから、食品の包装に使われています(水大福、笹だんご、ちまきなど)。富山県のます寿司の下に敷き、鮮度保持のためにも使われています。

柏餅や桜餅など、食べ物を葉で包んだものは日常でも多く見かけます。包むという実用的な要素以外に、見た目の美しさや香りの効果を活かした利用法と言えるでしょう。さらにもう一つ、葉中のポリフェノール成分の抗菌性により、カビや細菌の成長が阻害されるという食品保存効果もあります。柏葉の抗菌成分はオイゲノール、桜葉の抗菌成分はクマリンというポリフェノールです。

岐阜県の飛騨高山地方では、ホウノキの葉に味噌を塗って焼く朴葉焼きという料理が親しまれています。ホオノキはモクレン科の落葉高木で、葉は非常に大きく、落ち葉を拾い集めてなべとして用いられています。

仏事用線香として杉葉線香が作られるようになったのは、150年程前からと言われています。杉葉を乾燥して裁断した後、水車小屋で2日程粉砕して粉にします。粉砕に水車が使われるのは、水車のきねが杉葉に適度な粘りを出すのに適しているからです。この杉葉粉に染料と粘着付与剤(タブノキの皮粉末)を混ぜて練り上げ、押出し成型したものを一定の長さの線状に切り揃えたものが杉線香です。仏前で静かに杉葉由来の香りを吸い込むことで精神が落ち着き、良い功徳になるという教えがあります。

グアバはフトモモ科バンジロウ属の熱帯性低木で、日本では沖縄に自生しています。葉に含まれるポリフェノール(タンニン)は、α-グルコシダーゼという消化酵素によるデンプンの分解を抑制し、血糖上昇を抑制する作用があります。高齢化社会の到来によって医療費の高騰と言う社会問題が発生し、その対応策として、日本では1991年に特定保健食品制度が導入されています。グアバ葉熱水抽出物は2000年3月に、健康茶として特定保健用食品として認可されました。

以上、森林の葉から放散されるテルペンに起因する森林セラピー機能や、植物葉の様々な効能について述べました。

次回は、木質バイオマスのエネルギー利用について紹介します。




テルペン.jpg



          
森林から放散される香り成分「テルペン」の採取法





トドマツ.jpg



  
水蒸気蒸留で採取したトドマツ葉精油(写真提供:森林総研)





空気浄化剤.jpg



            
トドマツ精油から開発された空気浄化剤の例





笹だんご.jpg




ササの葉で包んだ笹だんご





柏もち&桜もち.jpg


 

柏葉及び桜葉で包んだ柏餅(左)と桜餅(右)





ホウノキの葉.jpg



              
ホウノキの葉(朴葉焼きに用いる)





杉葉線香.jpg




伝統の香り -杉葉線香-



(4)につづく


生活創造学部 生活文化学科 非常勤講師 大原 誠資




posted by 園遊会 at 14:01| Comment(0) | 生活
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