2017年02月16日

祭が生まれる、祭りが変わる(2)

地域とともに活躍する川村学園女子大学





祭りが生まれる、祭りが変わる―民俗学の立場からみた祭りの現在―(2)


4.祭りの消極的変化@―人的側面

以上を前提に、祭りの変化の様態を、消極的変化と積極的変化に分けて考えてみます。望まずに、もしくはそれと気づかぬうちに変わらざるを得なかったという変化と、変わろうとして変わったものとを分けて考えようということです。

最初に検討するのは人的側面です。祭りの担い手集団も世代交代していきますが、それが祭りの変化につながるケースも見受けられます。先ほども取り上げた佐原の祭礼を事例にしてみます。

佐原では、平成初頭に祭礼に関する意識変化がはかられました。関係者に話をうかがうかぎりでは、従来は地元の人びとが山車の曳き回しに熱中する、自分たちが「楽しむ祭り」になっていた。これを「見せる祭り」に変えてゆこうという意識変化があったのだといいます。これは単なる観光化ではありません。そもそも、佐原の祭礼の背景には商人の町としての経済発展があります。各町内の富裕な旦那衆が顧客や他町内に権勢を示す機会だった。つまり、本来的に「見てもらうこと」と結びついた祭りだったのだと、意識転換を推し進めた人びとは考えたのです。そのような往時のあり方は第二次世界大戦後のある時期に失われてしまった、だから往時に回帰しようと彼らは主張しました。往時とは、佐原が商都としての繁栄を誇っていた時代でもあります。こういう議論を、彼らは古文書を読み込み、勉強を重ねながら、組み立てていったのです。これなどは積極的変化の範疇に属するものともいえますが、世代の推移によって祭りのあり方が変わっていくことをよくあらわしています。

 また、人的な問題として各地で問題化しているのが人手不足です。過疎地域ばかりでなく、都市部でも氏子圏の空洞化や地域に関心のない新住民の増加が問題になっています。神田明神のお祭りなどは東京の真ん中で、氏子圏にはオフィス街が形成されている関係で、担い手として企業の参加を受け入れています。青森市の青森ねぶた祭りの場合は、豪勢なねぶたを作成することが経済的負担になることもあり、参加団体は企業が増加しています。「住民の手から祭礼が離れていく」という感傷を捨てて現実を捉えるなら、企業が祭礼を通して地域と関わろうとするあり方は、祭りの今日における意味を物語っています。祭りは新たな集団を巻き込みながら地域統合・融和を果たそうとする機会になっているのです。



5.祭りの消極的変化A―環境的側面

環境的な要因で祭りが変わるケースを取り上げます。とりわけ、環境変化が著しいのは都市です。都市空間は内部の激しい新陳代謝を特徴にしています。非常に短い期間で景観がかわっていく。では、そういう環境変化が祭りにどのように関わってくるのでしょうか。

 例えば、電線や歩道橋が道路に渡されると、大型の山車を曳きまわす祭礼は変化を余儀なくされます。東京の山王祭りの場合、電線の敷設は山車が廃れる一因となり、むしろ神輿の盛大化を導きます。山王祭の山車は、江戸城の城門をくぐるために高さを調節する「せり出し」という仕掛けを備えていました。この仕掛けが佐原の山車に引き継がれているのですが、佐原では電線敷設に対応するために受容されました。とはいえ、佐原の山車がスムーズに電線に対応できたわけではありません。佐原の山車は、大人形という非常に大きな飾り物を頂上部に設置しています。昔の写真をみていると、かつての大人形は全身像なのです。せり出しを取り入れたとしても全身像では電線をくぐることができません。そこで人形の下半身をとりはずすという対処が行なわれました。取り外された下半身が処分されてしまった例もあります。また、青森市のねぶた祭りですが、どういうかたちをしているかご存知でしょうか。あれは、横幅と奥行が突出し、高さはさほどないのです。これも、戦後、都市の形態にあわせて「ねぶた」を大規模化していった結果です。今日の祭りのあり方は、都市環境の変化の柔軟に対応してきた結果であるといえるでしょう。

祭りに影響を及ぼすものは電線だけではありません。例えば、道路のアスファルト化からの影響もあります。佐原の山車はただ曳き回すだけでなく、曲曳きというものを行ないます。その中に「のの字まわし」というものがあり、「の」の字を描くように山車を回転させる、見どころの一つです。これにアスファルトが影響してきます。「のの字まわし」は車輪と地面との間に摩擦をおこすのです。かつては、地面は砂利や土でした。えぐれるのは地面のほうだったわけですが、アスファルト化した場合、削れるのは車輪ということになります。実際、佐原の山車の車輪の耐久年数はぐっと短くなったと言われていますし、「のの字まわし」を行なうテクニックにも変化が生じました。力の込め方が変化したわけです。



(3)につづく


【参考文献】
・及川祥平2010 「佐原祭礼の変容−山車の維持・修理の分析を通して−」松崎憲三編『小京都と小江戸』、岩田書院


文学部 日本文化学科 講師 及川祥平




posted by 園遊会 at 15:52| Comment(0) | 祭・祀・政
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。