2018年06月28日

光源氏の行方をたどって(2)

地域とともに活躍する川村学園女子大学





光源氏の行方をたどって(2)

2.禖子内親王の文化圏と『狭衣物語』



禖子内親王は25回にも及ぶ歌合を開催していますが、なかでも注目されるのが、天喜3年(1055)5月3日の物語歌合です。なんと、女房たち18人(『栄花物語』では20人とされていますが)がそれぞれ物語を新作してきて、それに関する和歌で歌合を行ったのです。物語を作れる女性が18人(もしかしたら20人)も周辺にいたということになります。この時期の文化の凄さが分かりますね……! 

もちろん、『狭衣物語』の作者とされる宣旨も、この物語歌合に参加しています(その時に出したとされる『玉藻に遊ぶ権大納言』という物語は、残念ながら現存していません)。


さて、前置きが長くなりました。今回話題にする『狭衣物語』はそういった文化のなかで書かれた作品です。

和歌が大好き、物語が大好き、といった人たちのなかで生まれてきたのです。『狭衣物語』は、作中に和歌や他の物語を引用した表現が非常に多いのですが、背景を知っていると納得できますね。

そんな『狭衣物語』に……光源氏がいるのです。

 光源氏の行方をたどる前に、『狭衣物語』について少し説明しておきましょう。
この物語は全4巻。兄妹同然に育った従妹である「源氏の宮」という女性への片思いに苦しむ主人公の物語です。この主人公は、物語のタイトルの由来でもある「いろいろに重ねては着じ人知れず思ひそめてし夜の狭衣」という和歌を詠んでいるので、「狭衣」とか「狭衣大将」などと呼ばれています。

 この物語は全4巻と言いましたが、4巻それぞれに新しいヒロインが登場するとともに、源氏の宮はメインヒロインのような形でずっと登場するという構成になっています。


【図2】


図1chino.jpg




巻1に登場する飛鳥井女君は、狭衣と交際することになりますが、狭衣の家来である道成に略奪され(道成は飛鳥井女君が狭衣の恋人だと知らなかったのです!)、自ら死を選びます。

巻2に登場する女二宮は、帝の皇女で、狭衣との結婚が打診されていました。しかし、狭衣はふとしたきっかけで彼女と密かに関係を結び、女二宮は妊娠してしまいます。女二宮の周囲は、腹の子の相手が誰か知らなかったために諸々の偽装工作をすることになり、女二宮の母親は心労がたたって死んでしまい、女二宮本人も出家してしまいます。

巻3に登場する一品宮は、飛鳥井女君の遺児である姫君を引き取っていました。狭衣は娘に会いたくて一品宮の邸に忍び込んでいたところを見つかってしまい、一品宮との関係が噂になって結婚することになってしまいます。もとより望まぬ結婚なので、夫婦生活が円満にいくわけがありません。

こうした悲劇続きの展開なのですが、巻4に登場する宰相中将の妹君は、源氏の宮に生き写しの女性で、狭衣は彼女を引き取って妻にすることで、一応の充足を得ることになります。その後、天照大御神のお告げがあって狭衣は天皇になるのですが、最後まで源氏の宮や女二宮への未練は消えない、という筋です。


(3)につづく


文学部 日本文化学科 講師 千野 裕子




posted by 園遊会 at 13:04| Comment(0) | 知の旅人
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。