地域とともに活躍する川村学園女子大学
(2)日本画の材料
ところで日本画の制作には油絵とか水彩とは違った絵の具を用います。
天然の岩石を砕いて精製した岩絵の具のほかに土などを精製した水干絵の具、
朱や丹のような金属系の絵の具、墨、藍やコチニールといった染料があります。
また、金、銀などの金属箔、金属泥、その他、現代では多くの色数のある新岩絵の具、
合成絵の具もよく使われます。
これらを動物性タンパク質の膠(にかわ)で溶いて水で適当な濃度に調整して使います。
油絵、テンペラ、水彩などのほかの絵の具との大きな相違点はこの膠で溶く点です。
どの絵の具でも顔料を画面に定着しなければなりません。油絵の具は亜麻仁油、テンペラは卵、
水彩はアラビアゴム、アクリル絵の具はアクリル樹脂が使われています。
日本画の場合は膠なので日本画という言い方をしないで膠絵とか膠彩画と呼ぶ人もいます。
この材料や技術は奈良時代以前に大陸から伝えられました。
当然中国や朝鮮半島など東アジアにはこうした画材で描かれた作品が長い歴史の中で数多く存在します。
しかしチューブ入りの画材とは違い、扱いが面倒なこの画材を現在でも盛んに使用しているのは日本のようです。
日本画の画材の魅力は天然の石、土などの美しさに加えて絵の具粒子の物理的特性を最大限、引き出せる点に
あります。
岩絵の具の一番の特徴は粒子の大きさによって明るさが違う点です。
簡単に言うと岩を砕いて粒子の大きさ別に揃えたものです。まず細かく砕いた岩を容器に入れ水を加えて撹拌します。
しばらくすると粒子の大きく重いものから順に容器の底に沈殿しはじめます。
一定の時間がたったら沈殿した岩を残して水をほかの容器に静かに移します。
沈殿して残ったものを乾かすとある範囲の大きさの揃った粒子を得ることができるのです。
移したほうの容器の水を再び撹拌して一定時間待つとさらに細かい粒子が沈殿します。
容器の水をまた次の容器に移し、沈殿して残ったものは同じように乾かします。
この作業を順次繰り返していきます。こうして採れたものを最初から順に並べると粒子が粗く
色の濃いものから細かく明るい(淡い)色になっています。
これは細かい粒子のほうが光の乱反射の量が多く、明るく見えるためです。
このように一つの岩石から15段階の粒子の大きさ、明るさの違う岩絵の具ができるのです。
粒子の大きな絵の具は筆で塗る際に塗りづらく、初心者にはなかなか均一に塗れません。
日本画で対象を描くときに陰影でなく形を平面的に表現することが多かった理由の一つには
この絵の具の性質があるかもしれません。
しかしこの粒子の物理的特性をうまく使うことによりほかの絵の具ではできない質感の表現も可能になります。
一方、金、銀などの箔や泥も重要な画材です。
例えば12世紀中頃につくられた平家納経には砂子や截金といった高度な技法がふんだんに使われています。
また、安土桃山時代頃から全面に金箔を貼った上に描かれた豪華な障壁画、屏風などもつくられました。
光を反射するので室内を明るくする役割もあったようです。
現代では化学的に作られた絵の具を含めるとあらゆる色を簡単に使うことができます。
しかし昔の絵師たちは数少ない種類の絵の具に染料を併用したり使い方を工夫したりして、
それでも素晴らしい作品を数多く作ってきました。
不便で手がかかる素材であるが故に独特の技術や表現が発達したのです。
(3)につづく
幼児教育学科 准教授 竹内 啓