2014年06月12日

アーネスト・サトウがみた幕末・明治(3)

地域とともに活躍する川村学園女子大学





第3回 『会話篇』に見る日本


今回は、『会話篇』の内容を見ていきましょう。

『会話篇』には、サトウの日本での生活の様子が生き生きと記されています。


サトウは、横浜に滞在中、火事に遭遇します。これは1866年11月26日に起こった火事で、
外国人、日本人町のほとんどを焼き尽くす大火でした。

当時、サトウは領事館付通訳官に任命され、日本人町に居留していましたが、この火事により、衣類、家具、
そして多くの書籍を焼失しています。その生々しい様子が『一外交官の明治維新』の中に記述されています。



  「11月26日に横浜に未曾有の大火があった。外国人居留地の四分の一と、日本人町の三分の一が
灰燼に帰したのである。」




サトウは火事を見物にいきますが、そのうち自分の家が風下で危ないということに気が付きます。




私は踵をかえして我が家の方へ駈け出した。(略)
  最初に私の頭に浮かんだのは辞書の原稿の事だった。


           
『一外交官の見た明治維新』(上)より



文中の辞書というのは、後に日本側の通詞だった石橋政方とともに編纂した辞書の事です。
何とかこの辞書の原稿は無事で、この辞書は明治9年に出版されています(写真)。



アーネストサトウ2.jpg



   
アーネスト・サトウ 石橋政方編   『英和語辞典』第三版



 
『会話篇』では、火事の場面は次のように描かれています。       

12-1 O^, hansho^ no oto ga suru. Kaji wa dotchi no ho^ ka shira.
     おお、半鐘の音がする。火事はどっちの方かしら。

I hear the sound of the alarm bell, where can the fire be ?

12-8 Kore', abunai! ki wo tsukero. Awaa kutte' hinomi kara okkochiru to  ikenai zo.
     コレ、危ない!気を付けろ。アワア食って火の見から落っこちるといけないぞ。

      Here, look out ; take care ! You must n‘t fall down from the look-out
in your excitement.

12-12 Mada hike'shi ga de'-kiranai so^ de', matoi wo futte' to^ru.
      まだ火消ができらないそうで、まといを振って通る。

     The fire brigades have n‘t all turned out yet ; they still pass,waving their standards.

 
12-15 Kore', kozo^, kaji-baori wo dasanai ka. Cho^chin wa do^ shita.
      コレ、小僧。火事羽織をださないか。提灯はどうした。

     Boy, why don't you get out my fire-coat ? Where's the lantern ?

12-16 Ei, imaimashii, zo^ri no hana-o ga kire'ta.
     エイ、いまいましい。草履の鼻緒が切れた。

      Confound it, the latchet of my sandal has broken.



このように火事の現場における火消の様子、火事羽織のこと、また「アワア(泡を)食って」や「鼻緒が切れた」という
慣用表現がテキストの中に盛り込まれ、火事の現場に遭遇した様子が生き生きと描かれています。



 サトウは横浜の大火で多くの家財を失いますが、後にイギリス外務省に損害賠償を要求し、その一部(270ポンド)の
補償金を得ることができました。

サトウが提出した被害一覧には、「長靴(1足)」「靴(3足)」「正装用靴(1足)」また「帽子(6)」などの
身の回り品も載っています。『一外交官の見た明治維新』には



  「私はあわてて長靴(運悪く私の一番古いやつ)をはき、帽子をかぶって、急いで火災の場所を見
にかけつけた。
   (中略)
  日の暮れるころには、背負っていた数着の衣服が残っただけで、私は帽子までなくしてしまった。」



とあります。「一番古い長靴」や「「帽子までなくしてしまった」などの記述からは、身だしなみにこだわる、
いかにもイギリス紳士らしい様子を窺うことができます。



最終の回ではサトウの『会話篇』に見る当時の日本語についてお話します。



(4)につづく




文学部 日本文化学科 教授 長崎靖子




posted by 園遊会 at 12:00| Comment(0) | シリーズ「東と西の物語」
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