2014年11月20日

森林資源の活用法(4)

地域とともに活躍する川村学園女子大学





多様な森林資源のさまざまな活用法(4)

4.木質バイオマスのエネルギー利用

これまでに、成長した木をタイミング良く伐って木材として様々な形で利用し、新たに植林することで地球温暖化軽減に貢献することを述べました。今回は、木質バイオマスのエネルギー利用について述べます。

2012年の国産材供給量が1,969万m3であることは既に述べましたが、森林から木材を生産して利用する際には、低質で材料としては利用できない様々な廃棄物が発生します。木質バイオマスは、これらの廃棄物全体を意味する言葉として使われています。

これらの木質バイオマスを燃やしてエネルギーとして利用すれば、その分だけ化石燃料の消費を回避できます。木質バイオマスを燃やすと二酸化炭素が発生しますが、これは元々大気中に存在していたものを樹木が吸収したものであり、全体として二酸化炭素は増大しないことになります。このことをカーボンニュートラル(Carbon neutral)と言います。

木質バイオマスは、その発生形態から「工場残材」、「建設発生木材」、「林地残材」に大別されます。工場残材は、製材時に発生する材料としては利用できない背板、鋸屑、樹皮などのことです。建設発生木材は建造物の解体時に発生する木材で、既に建設リサイクル法(2000年)で再資源化が義務付けられていることから、バイオマス発電用の燃料として使われています。林地残材は、間伐等の森林施業に伴って発生する枝葉、伐根、端材などで、資源としての潜在的な利用可能性を有するものの、収集・運搬に経費がかかることから、ほとんどが林内に放置されているのが現状です。

木質バイオマスからは色々な種類の燃料が作られています。現時点で実用化されている技術としては、直接燃焼、エステル化、炭化及び固形燃料化があります。直接燃焼や固形燃料化では、チップ、木質ペレット、薪として既に熱や発電に利用されています。炭化製品である木炭の国内生産量は3.0万トン(2012年)で、5年前に比べて約2割減少していますが、木炭は電源無しで調理・暖房に利用でき、長期保存も可能であることから、災害時の燃料として貴重と言えます。

木質ペレットは粉砕した木くずを円柱状(直径6〜10mm、長さ10〜30mm程度)に圧縮成型した固形燃料で、ストーブやボイラーの燃料として利用されています。ペレットの長所として、「@形状が一定で取り扱い易い、Aかさ密度が木材チップの約5倍でエネルギー密度が高い、B運搬が容易で貯蔵スペースが少なくて済む」などが挙げられます。同重量の木材チップと木質ペレットの容積を比較すると、ペレットはチップの約1/5になります。

21世紀に入って以降、日本のペレットの生産量は急激に増加しており、2012年には約98,000トンに達しています。それでもバイオマス利用の先進国であるドイツ、スウェーデン等の欧州諸国と比べると1/10以下の生産量です。2012年9月に政府7府省によるバイオマス事業化戦略が決定され、事業化を重点的に推進する実用化技術として木質バイオマスからの固形燃料化が選択されたことから、今後も木質ペレットの生産量の増加が期待されます。

木質バイオマスから輸送用燃料(バイオエタノール)を製造する技術については、2005年頃から産学官が連携して精力的に実証試験が実施されました。森林総合研究所(つくば市)は秋田県北秋田市に実証プラントを建設し、スギ材からバイオエタノールを製造する実証運転を行いました。森林総合研究所の採用した方法はアルカリ蒸解・酵素糖化法という方法で、1トンのスギチップから216リットルのバイオエタノールが製造できることを実証しました。固定費を含む全製造コストが約260円/リットルと試算されており、実用化のためには、林地残材等の原料費の低減や副産物利用が課題となっています。

最後に、木質バイオマス発電について記します。日本は、国内で使用される石油、石炭、天然ガス等の化石燃料の大半を外国からの輸入に依存しており、2012年におけるエネルギー自給率は5%にすぎません。このような中、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の「再生可能エネルギー」に対する関心が高まっています。

政府は、2002年に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」を定め、電気事業者に対して太陽光、風力、バイオマス、中小水力、地熱等の新エネルギーから発電される電気を一定以上利用することを義務付けました。これを受けて、木質バイオマスを活用した発電が2012年3月末時点で全国の56ヶ所の施設で行われています(平成26年版森林・林業白書)。

2012年7月には、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)が導入され、再生可能エネルギーを用いて発電された電気について、電気事業者が一定期間、一定の価格で買取る義務を負うこととされました。木質バイオマスを原料とした場合の買取価格は、林地残材33.6円/kWh、工場残材25.2円/kWh、建設発生木材13.65円/kWh、買取期間は20年間とされました。同制度導入を受け、2014年1月現在、全国で37の施設が同制度によって売電を行っています(平成26年版森林・林業白書)。

この制度に要する費用の一部は電気料金に反映され、全国の家庭や企業等の消費者が支払うことになっています。

ドイツでは2000年にFIT制度が導入されました。同国の全発電量に占める再生可能エネルギーの比率は、2000年には6.4%でしたが、2012年には23%に増大しています。日本でもFIT制度の開始により、太陽光発電の本格的な導入が始まっています。

今回は、木質バイマスのエネルギー利用の現状を概説しました。木質バイオマスは他の再生可能エネルギーと異なり、原料の供給が必要です。エネルギー利用を推進するための課題は沢山ありますが、最も重要な点はやはり原料の安定供給にあります。そのためには、我が国の豊富な森林資源を活かした林業の活性化に産学官連携して取組むことが今後も益々、重要になると思われます。




木質バイオマス.jpg



木質バイオマスのエネルギー変換・利用
バイオマス付属.jpg は実用化技術、他は研究・実証段階の技術





木炭.jpg



木炭製品





木質ペレット.jpg



木質ペレット(木くずを円柱状に圧縮成型した固形燃料)





チップ.jpg



同重量の木材チップ(左)と木質ペレット(右)、ペレットは
チップの約1/5の容積になる。





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木質バイオエタノール実証プラント(森林総合研究所)





生活創造学部 生活文化学科 非常勤講師 大原 誠資




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2014年11月11日

森林資源の活用法(3)

地域とともに活躍する川村学園女子大学





多様な森林資源のさまざまな活用法(3)


3.森の香りと植物の葉の効能

1980年代前半に「森林浴(Forest bathing)」という語が使われ始めました。森林浴は、林野庁が「森林浴構想」を立ち上げた際に、日光浴、海水浴になぞらえて作った造語です。「新鮮な森の空気を浴びて自然にとけ込み、健康づくりをしよう」というのが森林浴です。

2004年に林野庁は森林浴構想を発展させ、「森林セラピー構想(Forest therapy)」を打ち出しました。「森林セラピー」は森林浴の効果を科学的に解明し、心と身体の健康に活かそうというものです。

2004年以降、全国の市町村を中心に、「森林セラピー基地」・「セラピーロード」として認定を受ける事業が開始され、現在、北海道から沖縄県まで全国で50ヶ所を超える森が森林セラピー基地・セラピーロードとして認定されています。「森林セラピー基地」とは、リラックス効果が森林医学の面から専門家に実証され、さらに関連施設等の自然・社会条件が一定の水準で整備されている地域のこと、「セラピーロード」は、同様の科学的検証がなされた20分以上の散策ができる散策路のことです。森林セラピー基地としては、和歌山県高野山や長野県信濃町の「癒しの森」などが認定されています。

森林のリフレッシュ効果は、樹木が放散する香り成分「テルペン」の働きによります。森林内のテルペン濃度の測定は、空気中の揮発性成分を選択的に捕集する吸着剤を詰めた吸着管を設置し、動的にポンプを用いて空気を吸引することでテルペンを濃縮・採取することで行います。森林で採取したテルペン類を熱脱着装置で吸着剤から脱着させた後、GC/MS(ガスクロマトグラフ/質量分析装置)という機器で同定・定量します。

森林内の香り物質の濃度は、季節、一日のうちの時間、気象条件(気温・天候)、森林内の位置によって異なります。季節では冬よりも夏の方が高く、一日の中では午前の方が午後より高くなります。また、晴れた日は曇りや雨の日よりも高くなります。傾斜地の森林では、中腹>頂上>麓・林縁となり、林縁から50〜100m入るとほぼ一定の濃度になります。

夏は光合成が盛んなことから、テルペン放出量も高くなります。また、午前より午後の方が気温が高く、テルペン放出量も高くなると考えられますが、午後は拡散も盛んになるため、日中のテルペン濃度は低くなります。泊りがけで出かける場合は、早起きして早朝に森林浴するのが効果的と言えます。

森林浴の効果は樹木が放散するテルペンだけに拠るものではありません。ストレスを和らげる森の静かな雰囲気、目に優しい緑の景観や風景、虫や鳥の声、騒音防止作用など、いくつかの作用の複合的な効果に拠るものです。自然が奏でる小鳥のさえずりや小川のせせらぎなどの音環境は、人間の快適性をもたらすと言われています。

森林セラピーの科学的な解明の一例を紹介しましょう。森林総合研究所の香川らの報告(平成21年度森林総合研究所研究成果選集)には、都内の大学病院の女性看護師13名を被験者にした森林セラピー基地での散策がもたらす健康・快適性増進効果が報告されています。即ち、2日間の森林浴により、被験者の尿中のストレスホルモン(アドレナリン)が減少するとともに、NK細胞活性が増大することが示されました。NK細胞とは白血球内にあるナチュラル・キラー細胞のことで、がん細胞やウィルスを攻撃して殺傷する役割を持ちます。従って、森林浴は女性の免疫機能を高める効果があることが分かりました。

森の香り成分(テルペン)は水蒸気とともに蒸発し易い性質があり、これを利用して植物から取り出すことができます。スギやヒノキの枝葉に水を加えて熱すると、水蒸気に交じってテルペンを採取することができます。この方法を水蒸気蒸留と言い、水蒸気蒸留で得られるテルペンを含む油分を精油(Essential oil)と言います。

精油は多くの針葉樹葉やユーカリ、クスノキ等の広葉樹葉から採取できます。日本の樹木で最も精油含有量の多い木はトドマツ(北海道モミ)であり、“石油のなる木”と称され精油含有量が多いことで知られるユーカリ類にもひけをとりません。トドマツの乾燥葉100g当たりの精油含有量は8.0mlであることが確かめられています。

排気ガスなどから出る環境汚染物質である二酸化窒素は、我々が日常吸っている空気に微量ながら含まれています。二酸化窒素は活性酸素であり、様々な疾病の原因になります。トドマツ葉の精油は二酸化窒素の除去能力に優れており、空気浄化剤として商品化されています。

トドマツの葉に含まれる香り成分(精油)が環境向上資材として利用されていることを上述しましたが、植物の葉は人間にとって有用な効能を示すものが多く、日常生活でも様々な形で活用されています。

クマザサは高さが1〜2mになる大型のササで、葉は長さが20cm以上、幅が4〜5cmになるイネ科の植物です。葉に含まれるフェノール類や酸類が殺菌・防腐効果を有することから、食品の包装に使われています(水大福、笹だんご、ちまきなど)。富山県のます寿司の下に敷き、鮮度保持のためにも使われています。

柏餅や桜餅など、食べ物を葉で包んだものは日常でも多く見かけます。包むという実用的な要素以外に、見た目の美しさや香りの効果を活かした利用法と言えるでしょう。さらにもう一つ、葉中のポリフェノール成分の抗菌性により、カビや細菌の成長が阻害されるという食品保存効果もあります。柏葉の抗菌成分はオイゲノール、桜葉の抗菌成分はクマリンというポリフェノールです。

岐阜県の飛騨高山地方では、ホウノキの葉に味噌を塗って焼く朴葉焼きという料理が親しまれています。ホオノキはモクレン科の落葉高木で、葉は非常に大きく、落ち葉を拾い集めてなべとして用いられています。

仏事用線香として杉葉線香が作られるようになったのは、150年程前からと言われています。杉葉を乾燥して裁断した後、水車小屋で2日程粉砕して粉にします。粉砕に水車が使われるのは、水車のきねが杉葉に適度な粘りを出すのに適しているからです。この杉葉粉に染料と粘着付与剤(タブノキの皮粉末)を混ぜて練り上げ、押出し成型したものを一定の長さの線状に切り揃えたものが杉線香です。仏前で静かに杉葉由来の香りを吸い込むことで精神が落ち着き、良い功徳になるという教えがあります。

グアバはフトモモ科バンジロウ属の熱帯性低木で、日本では沖縄に自生しています。葉に含まれるポリフェノール(タンニン)は、α-グルコシダーゼという消化酵素によるデンプンの分解を抑制し、血糖上昇を抑制する作用があります。高齢化社会の到来によって医療費の高騰と言う社会問題が発生し、その対応策として、日本では1991年に特定保健食品制度が導入されています。グアバ葉熱水抽出物は2000年3月に、健康茶として特定保健用食品として認可されました。

以上、森林の葉から放散されるテルペンに起因する森林セラピー機能や、植物葉の様々な効能について述べました。

次回は、木質バイオマスのエネルギー利用について紹介します。




テルペン.jpg



          
森林から放散される香り成分「テルペン」の採取法





トドマツ.jpg



  
水蒸気蒸留で採取したトドマツ葉精油(写真提供:森林総研)





空気浄化剤.jpg



            
トドマツ精油から開発された空気浄化剤の例





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ササの葉で包んだ笹だんご





柏もち&桜もち.jpg


 

柏葉及び桜葉で包んだ柏餅(左)と桜餅(右)





ホウノキの葉.jpg



              
ホウノキの葉(朴葉焼きに用いる)





杉葉線香.jpg




伝統の香り -杉葉線香-



(4)につづく


生活創造学部 生活文化学科 非常勤講師 大原 誠資




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2014年10月22日

森林資源の活用法(2)

地域とともに活躍する川村学園女子大学



多様な森林資源のさまざまな活用法(2)



2.樹体内の微量成分(抽出成分)の役割


樹木の幹は、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等の細胞壁構成成分の他に、生育環境に適応した樹種固有の微量成分(抽出成分)から構成されていることを前回、述べました。抽出成分とは、有機溶媒または水に可溶な低分子化合物群の総称で、非常に多種多様な抽出成分が存在することが知られています。

抽出成分は樹木中の含有量は一般に少量ですが、木材の色、香り、耐朽性、シロアリに対する抗蟻性等の木材の性質を決定している重要な成分です。

樹木の幹の部分の断面を見ると、幹は外側から樹皮(bark)、辺材(sap wood)、心材(heart wood)に識別できます。このうち生きている組織は辺材だけであり、樹皮(正確には外樹皮)と心材は死んだ組織で、細胞は抜け殻(細胞壁)のみになっています。抽出成分は、死んだ組織である心材や外樹皮に多く含まれ、カビや細菌の生育を阻害する作用を有しています。

葉の光合成で作られたブドウ糖は砂糖(ショ糖)の形で幹の部分に運ばれてきます。樹木は運ばれてきたショ糖を原料に抽出成分(抗菌物質)を合成し、細胞の内腔に放出します。これを心材化現象と言います。心材に含まれる抽出成分の抗菌性により、樹木の心材部は死んでいる組織であるにもかかわらず、長時間、腐朽せずに存在できるのです。

一般に熱帯産材は日本産材よりも抽出成分含有量が高く、多いもので15〜20%の抽出成分を含むものがあります(日本産材は2〜3%)。熱帯地方は高温多湿で木材腐朽菌が生育し易い環境であり、熱帯産樹木は環境に適応するため、腐朽菌に対して抗菌活性を示す抽出成分を大量に生合成して蓄えているのです。

ガーナ、タンザニア等のアフリカ産木材は高温、強紫外線という樹木にとって厳しい生育環境であることから、紫外線を吸収し、かつ抗菌活性を有するポリフェノール性抽出成分(フラボノイド類)を多く含有しています。アフリカ産材に濃褐色系の材色のものが多いのは、これらの抽出成分を含むことに因ります。

次に、樹皮について述べたいと思います。樹皮は樹体の最外部にあり、紫外線から樹体内を保護するとともに、哺乳類や昆虫による摂食を防ぐ役目を果たしています。これらの機能を果たすため、樹皮には材部に比べて多くの抽出成分を含んでいます。

中でもタンニンは多くの高等植物の樹皮に多量に含まれている天然ポリフェノール成分で、草食動物の摂食に対する植物の防御物質と考えられています。タンニンはタンパク質と結合する性質を有し、動物の消化酵素の活性を阻害する作用を有します。また、40〜320nmの紫外線を吸収する作用を有し、紫外線ストレスから樹体を護っています。

タンニンは多くの高等植物の樹皮に広く分布していますが、中でもアカシア樹皮は30%以上のタンニンを含んでいます。また、ヤナギやカラマツの樹皮もタンニン含有量が20%近くに上ります。タンニンは樹木の樹皮を熱水抽出することで、茶褐色の粉末として取り出すことができます。化学的には緑茶の主成分であるカテキンと類似した化学構造の化合物です。

侵入種であるタイワンリスが、日本各地で樹木の樹皮をかじる問題が生じています。タイワンリスは内樹皮中の砂糖(ショ糖)をかじるのが目的ですが、被害が大きい樹種は樹皮中のタンニン含有量が少ない傾向があります。

また、ブナアオシャチホコという毛虫の食害を受けたブナ葉は、葉中にタンニンを生合成することによって摂食に対する抵抗性が誘導されます。ブナアオシャチホコの摂食が収まると、ブナはタンニンの生合成を止め、タンパク質を合成することで成長していきます。自ら移動することができない植物は、体内にタンニンを蓄積することによって昆虫や草食動物による攻撃(環境ストレス)から自身を防御しているのです。

植物の外敵は紫外線や草食動物だけではありません。アルミニウムも植物の生育に極めて有害な金属です。世界の陸地の約3割を占める酸性土壌では、有害なアルミニウムが溶け出して植物の生育を阻害しています。ところが、オーストラリア産樹木のユーカリ(Eucalyptus camaldulensis)は、アルミニウムを高濃度に含む強い酸性土壌でも生育することができます。これは、ユーカリの根に含まれるタンニンが根に侵入したアルミニウムを吸着して無害化しているからです。

上述したようにタンニンは、樹木自身にとって環境からの様々なストレスに対する生体防御という重要な機能を果たしていますが、人間にとっても利用価値の高い有望な物質となっています。

タンニンは皮を革にする性質があり、ワニやオーストリッチの皮を原料とした高級ハンドバックの製造に使われています。また、フランス海岸松の樹皮から抽出したタンニンは、血液サラサラ飲料水のフラバン茶として商品化されています。タンニンは樹皮だけでなく、リンゴやカカオの実にも含まれています。最近の調査研究により、プロシアニジン(タンニン)を主成分とするリンゴポリフェノールが人間の体脂肪の低減に効果的であることが示されています。

今回は、樹木に含まれるタンニン等の抽出成分が樹体内で果たしている重要な役割について記しました。

次回は、森の香りと植物の葉の効能について述べたいと思います。




森林2−1.jpg


          
樹木幹の断面(外側から樹皮、辺材、心材)





森林2−2.jpg



アフリカガーナ産樹木16種(ポリフェノール性抽出成分を含むため、濃褐色系の材色)





2−3森林.jpg



樹皮から抽出・精製したタンニン粉末





(3)につづく


生活創造学部 生活文化学科 非常勤講師 大原 誠資




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2014年10月13日

森林資源の活用法

地域とともに活躍する川村学園女子大学


多様な森林資源のさまざまな活用法(1)


1. 森林の機能と木材利用

IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change, 気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書(2013年)によれば、世界の平均地上気温は1880〜2012年の間で0.65〜1.06℃上昇しており、地球温暖化は間違いなく進行しているとされています。また、20世紀半ば以降の世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等)濃度の増加によってもたらされたと結論付けられています。

日本の平均気温について見ても、長期的には100年当たり約1.14℃/100年の割合で上昇しており、特に1990年代以降、気温の高い年が頻出していることが報告されています(平成26年版森林・林業白書)。

1997年に京都市で、「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」が開催され、先進国の温室効果ガスの排出削減目標を定める「京都議定書」が採択されました。「京都議定書」では、2008〜2012年までの5年間(第1約束期間)の温室効果ガスの排出量を、基準年(1990年)と比較して先進国全体で5%、日本では6%削減することが約束として定められました。

「京都議定書」については、2012年にカタールで開催された「気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)」で改正案が採択され、2013〜2020年までが「京都議定書」の「第2約束期間」に決定されました。翌年の「同条約第19回締約国会議(COP19、ワルシャワ)」において、日本は2020年度の削減目標を2005年度比3.8%減とする目標を示しました。

温室効果ガスを削減する主要な方法の一つとして、森林による二酸化炭素の吸収が挙げられます。「京都議定書」においても、森林等による二酸化炭素の吸収量を削減目標の達成手段として算入可能であることが明記されています。

植物は、葉の気孔から吸収した二酸化炭素と、根から吸い上げた水を原料としてブドウ糖を合成することができます。これを光合成と言い、植物は太陽の光エネルギーを利用することで自らの栄養源となるブドウ糖を体内で作ることができます。一方、動物は光合成を行うことができないので、直接または間接的に植物を栄養源、活力源として摂食することが必要です。従って、植物が存在しなければ、人間をはじめとする動物は生きていくことができないのです。

植物は動物の栄養源として重要であるばかりでなく、光合成で温室効果ガスである二酸化炭素を吸収することにより、地球温暖化を軽減するという重要な役割も果たしています。ブドウ糖が作られるのは、葉の細胞の中にある葉緑体という組織です。光合成では、根から吸い上げた水が分解されて酸素が生成します。即ち、植物は光合成を行うことで、動物の呼吸とは反対に二酸化炭素を吸収し、酸素を放出しているのです。

光合成で作られたブドウ糖は、葉でビタミンCやアミノ酸等の原料となる他、砂糖(ショ糖)の形で茎や根に運ばれてエネルギーとして使われる他、酵素やタンパク質となって植物体の形成に関与します。木本植物である樹木の場合は、幹の部位に運ばれてセルロース、ヘミセルロース、リグニン等の細胞壁構成成分や、生育環境に適応した樹種固有の微量成分(抽出成分)に変換されます。

樹木には針葉樹(スギ、ヒノキ、カラマツ等)と広葉樹(シラカバ、ブナ、アカシア等)がありますが、いずれも幹の主成分はセルロース、ヘミセルロース及びリグニンです。各々の含有量は、セルロース50%程度、ヘミセルロース20-30%、リグニン20-30%です。針葉樹と広葉樹でヘミセルロースとリグニンの含有量が少々異なりますが、全体的には類似しており、樹種ごとの違いはほとんどありません。

セルロースは分子が束になって集合した状態(ミクロフィブリル)で存在しています。木材は、セルロースミクロフィブリルをリグニンやヘミセルロースが取り囲んで強固な構造をもたらしています。セルロースが鉄筋、リグニンがコンクリート、ヘミセルロースが両者の馴染みを良くする接着剤の役割を果たしていると例えられます。

上述のように樹木は光合成によって二酸化炭素を吸収し、炭素(具体的にはセルロース、ヘミセルロース、リグニン)として樹体内に蓄える働きがあります。樹木が木材として住宅や建造物に利用される間も、その炭素は蓄えられています。従って、木造住宅等の建造物を建設することは、都会に森をつくるのと同じ効果があり、木材利用も地球温暖化軽減に貢献することになります。

2011年に開催されたCOP17において、住宅等に使用される木材(HWP、Harvested Wood Products)に貯蔵されている炭素量を温室効果ガスの吸収量として計上できることになりました。これにより国際ルールの中でも、木材製品による炭素貯蔵効果が評価されるようになりました。

日本の森林資源は、2012年3月末現在で約49億m3の蓄積量となっています。一方、2012年の国産材供給量は1,969万m3であり、木材自給率は27.9%となっています(平成26年版森林・林業白書)。樹種別にはスギが最も多く、次いでカラマツ、ヒノキの順になっています。2012年の日本の木材の総需要量は輸入材を含めて7,063万m3でしたから、2012年の森林の総蓄積量49億m3は、単純に計算して年間の木材消費量の約70倍に相当することになります。

このような状況下、林野庁は2011年7月に「森林・林業基本法」を見直し、「森林の有する多面的機能の発揮」と「林産物の供給及び利用」の目標を新たに設定しました。「林産物の供給及び利用」の目標としては、2020年の国産材の供給・利用量を3,900万m3(総需要に占める国産材の割合:50%)とすることが示されました。

国産材利用率50%を目指すため、適切な森林施業や木材の伐出・運搬を低コスト化するための路網(林道)整備を加速化することに加え、国産材の需要拡大のための技術開発に向けた取組が行われています。

その一つが2010年10月の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の施行です。2010年度に新築・増築・改築を行った建築物のうち、木造の割合は、建築物全体では43.2%であるのに対し、公共建築物では8.3%に留まっていました。そこで、学校、病院、図書館等の公共建築物を積極的に木造化する政策が採択されました。

木造校舎と鉄筋校舎で授業中の小学生の疲労症状を比較すると、どの学年でも木造校舎の方が疲労症状が少ないことが分かってきました。小学校や中学校の教師についても、蓄積疲労の増加を抑制する効果があることが示されています。校舎の木造化は、教育活動の支援にもなるようです。

公共建築物の木造化は、各都道府県でも積極的に取組まれており、都内の優良老人ホームや地域での村立の診療所などが建設されています。

今後の建築用資材として注目されるのが、現在開発中のCLT(Cross Laminated Timber、直交集成材)です。CLTとは、木材のひき板を繊維方向が層ごとに直交するように重ねて接着したパネルのことです。欧州では既に公営住宅やショッピングモールなどの中高層木造建築物の構造材として利用されており、近い将来、国産材の需要拡大に大きく貢献する材料として有望です。

土木分野における木材利用量の増加も図られており、宮崎県内の林道に国内最長(140m)の車道橋が建設されています。長野県ではスギ製材やカラマツ製材を用いた木製のガードレールが建設されています。これらのガードレールでは、支柱と支柱をつなぐ横梁に木材が使用されています。

また、用材にならない低質な木材の有効利用として、割り箸が作られています。日本では毎年約250億膳の割り箸が消費されているそうです。国産箸の原料は、スギ、ヒノキ、トドマツなどの針葉樹が主で、構造材を採った後の端材が用いられます。形状によって呼び方が異なり、中太両細の「利休箸」、全長に渡って溝をつける「元禄箸」などがあります。

以上述べたように、森林は光合成によって二酸化炭素を吸収し、炭素として樹体内に蓄える働きがあります。また、木製品や住宅として利用される間も、その炭素は蓄えられます。そして伐採後、適切に植林して成長の良い森林を育てることが、森林の二酸化炭素吸収機能を最大限に発揮させることになるのです。

次回は、樹木の樹種に固有な微量成分(抽出成分)の役割と、これらを人間が日常生活でどのように利用しているかについて述べたいと思います。


抽出成分1.jpg





木材の構成成分針葉樹(スギ、ヒノキ、カラマツ等)





抽出成分2.jpg



木材の構成成分広葉樹(シラカバ、ブナ、アカシア等)





割りばし3.jpg



用材にならない木材の有効利用 –割り箸- (利休箸と元禄箸)





(2)につづく


生活創造学部 生活文化学科 非常勤講師 大原誠資




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2012年11月17日

公的年金(3)

地域とともに活躍する川村学園女子大学



公的年金とは(その3)


3 女性と年金


 今回は、女性と関わりが深い年金の問題のうち、
(1) 第3号被保険者制度 
(2) 育児休業中の年金 
(3) 年金分割 
について触れてみます。


(1) 第3号被保険者制度


@ 第3号被保険者とは、勤労者である会社員や公務員などの国民年金の第2号被保険者(夫など)に
扶養されている配偶者(20歳以上60歳未満)です。勤労者の妻で専業主婦などが該当します。
扶養されているかどうかの基準は、健康保険と同じで、年収130万円未満です。
第3号被保険者の数は、2010(平成22)年度末で、1,005万人です。


A 保険料は、個人としては払わなくてよいのですが、扶養している配偶者が加入している厚生年金や共済年金が、
扶養されている妻(夫)の分も含めて基礎年金の財政を賄う国民年金特別会計の基礎年金勘定に供出しています。


B 第3号被保険者である期間は、保険料納付済期間として将来の老齢基礎年金の年金額に反映されます。
また、障害基礎年金の受給についても、保険料納付済期間となります。


C 第3号被保険者制度と同様に配偶者に対する給付を有する制度には、次のようなものがあります。


@ 日本の健康保険

a 健康保険の被保険者(勤労者)に扶養されている配偶者や子どもなどは、独自の保険料を負担することなく
医療保険の給付を受けられます。


b 扶養されているかどうかの基準は、第3号被保険者と基本的には同じで、年収130万円(60歳以上
又は障害者の場合は180万円)未満です。


A 米国の老齢遺族障害保険(OASDI: Old-Age, Survivors and Disability Insurance )
 
a 10年以上の結婚期間がある配偶者には、本人の老齢年金の給付額の50%の配偶者給付が支給されます。


b 本人が死亡した時は、本人が受けていた老齢年金の給付額と同額の遺族給付が支給されます。


c 米国の老齢遺族障害保険において、本人が受給する老齢年金給付に対して、
配偶者が受給する老齢年金の配偶者給付や遺族給付の割合は、それぞれ50%、100%となっていますが、
この割合は、日本の厚生年金のモデル年金(2012(平成24)年度)の場合の比率
ーそれぞれ39.6%、84.9%よりも高くなっています。




図1 70米国の老齢遺族傷害保険.jpg




B 英国の国民保険


a 退職年金の満額の基礎年金(30年の加入期間が必要)の額(2011年4月)は、
本人給付額は週102.15ポンド(約1.3万円)、配偶者給付額は58.8ポンド(約7千5百円)となっています。


b 基礎年金の本人給付に対する配偶者給付の割合は、57.6%となっています。




D 第3号被保険者制度のあり方については、さまざまな意見や議論があり、合意を見いだすことが難しい問題です。


E 被用者保険における世帯や被扶養家族についての考え方を十分に議論し、この問題を考えていく必要があると
思います。




図2 70第3号被保険者制度についての考え.jpg




(2) 育児休業中の年金


@ 育児休業中の保険料は、厚生年金も健康保険も、本人負担分・事業主負担分ともに免除されます。
子どもが1歳になった後も引き続き子育てのために休業した場合、子どもが3歳になるまで保険料の免除が行われます。


A 育児休業中の保険料免除期間は、育児休業前の保険料を納めたものとみなされて、老齢基礎金、
老齢厚生年金が計算されます。老齢厚生年金の年金額については育児休業前の給与額を基準に計算されますので、
年金額に育児休業期間中の給与低下が影響しないようになっています。この取り扱いは、
1年間の育児休業が終わった後、引き続き子どもが3歳になるまで子育てのために
休業した場合も同様の方法で行われます。




図3 80育児.jpg




B 育児休業が終わって職場復帰した後も、子どもが小さい間は、勤務時間を短縮する、
残業をしない、或いは少なくするなどの理由で、休業前より給与の額が下がる場合があります。
このような場合には、


@ 保険料は職場復帰後の給与額を基準に計算し、保険料負担が下がる。


A 年金額は、育児休業前の給与額を基準に計算し、年金額に給与の低下が影響しない。


 という仕組みで、子育てをする女性にとって安心な制度となっています。




図4 80育児2.jpg





C なお、雇用保険により、1歳(保育所に入れない場合等は1歳6箇月)未満の子を養育するために
育児休業を取得した雇用保険の被保険者に対して、休業前の賃金の50%に相当する額が支給されます。
ただし、育児休業を取得する前2年間で通算12箇月以上雇用保険に加入していなければ支給されません。


(3) 年金分割


@ 合意分割


@ 年金受給権は、一身専属の権利であるため、離婚等の場合にも、この受給権そのものを財産分与することはできず、
離婚後の女性の年金は不安定な状態となっていました。合意分割により、離婚時等に、
勤労者夫婦が厚生年金・共済年金の報酬比例部分をどうするかを決めることができるようになりました。

 
A 合意分割は、2007(平成19)年4月1日以後に離婚等をしたとき、当事者の一方からの請求により、
婚姻期間中の厚生年金・共済年金の記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で分割することができる制度です。
2007(平成19)年4月1日前の婚姻期間中の厚生年金・共済年金の記録も分割の対象となります。


B 当事者双方の合意により按分割合を定めることが必要ですが、合意がまとまらない場合は、
当事者の一方の求めにより、裁判所が按分割合を定めることができます。


C 按分割合は最大2分の1です。


D 離婚等をした日の翌日から起算して2年以内に請求しなければなりません。




図5 70妻が第3号被保険者の場合 妻が第2被保険者の場合.jpg




A 3号分割


@ 厚生年金・共済年金の被扶養配偶者を有する被保険者・組合委員が負担した保険料について、
 当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識に基づく制度です。


A 2008(平成20)年5月1日以後に離婚等をしたとき、
国民年金の第3号被保険者(勤労者の妻で専業主婦など)であった当事者からの請求により、
2008(平成20)年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間中の相手方の
厚生年金・共済年金の記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割できる制度です。


B 当事者双方の合意は必要ありません。請求期限は、2年以内です。




図6 70年金分割.jpg




B 年金分割の状況


@ 年金分割の件数は、2010(平成22)年度で、18,674件となっており、
前年度より3,670件増加しています。この年度の離婚数250,599組に対する比率は、 
7.5%となっています。


A 按分割合は、50%のものが94.5%となっており、均等に二分するという考え方が大宗を占めています。


B 分割を受ける者(殆んどは女性)の平均年金月額は、分割前の46,054円から分割後の79,679円へと、
33,625円増えています。




生活創造学部 生活文化学科 教授 吉武民樹






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2012年10月24日

公的年金(2)

地域とともに活躍する川村学園女子大学




2. 公的年金への加入


(1) 公的年金への加入

@ 年金制度の体系
  我が国では、現役世代は全て国民年金の被保険者となり、高齢期になると、基礎年金の給付を受けます。(1階部分)

  民間サラリーマンや公務員は、これに加え、厚生年金又は共済年金に加入して、基礎年金の上乗せとして
報酬比例年金の給付を受けます。(2階部分)

 
  このほか、企業や個人の選択で、厚生年金基金などに加入することができます。(3階部分)

70年金制度の体系2.jpg



70年金の給付、受給者.jpg


A 被保険者(年金に加入する人)

 20歳以上60歳未満の日本に住所がある人は、すべて外国人も含めて国民年金加入の義務があります。
 国民年金の加入者は、第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3種類に分けられます。


@ 第1号被保険者とは、次に説明する第2号被保険者でも第3号被保険者でもない人です。
20歳以上60歳未満の自営業者、農業者や学生等で、第1号被保険者の数は、
2010(平成22)年度末で、1,938万人です。


A 第2号被保険者は、厚生年金や共済年金に加入している勤労者です。ただし、勤めていても、
パートタイマーやフリーターで労働時間が通常の労働者の3/4未満の人には厚生年金制度は適用されません。
第2号被保険者の加入手続きや保険料の支払いは会社などの勤め先がやってくれます。
また、厚生年金や共済年金の保険料の中に、国民年金の保険料も含まれています。第2号被保険者の数は、
2010(平成22)年度末で、3,883万人です。


B 第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている配偶者です。勤労者の妻で専業主婦などが該当します。
保険料は、個人としては払わなくてよいのですが、
扶養している配偶者が加入している厚生年金や共済年金が
扶養されている妻(夫)の分も含めて国民年金に拠出しています。第3号被保険者の数は、
2010(平成22)年度末で、1,005万人です。


70国民年金の被保険者.jpg

B 学生の国民年金への加入

 フルタイムで働いて厚生年金等の被用者年金に加入しながら、大学の夜間学部や大学通信教育等で学んでいる人たち以外の学生は、20歳になった時から国民年金の被保険者となります。

 国民年金は、1961(昭和36)年に、勤労者が加入する厚生年金や共済年金に加入していない人たちすべてが加入する年金制度として始まりました。

このことによって国民皆年金が実現しました。

 同じ年に、医療保険でも、健康保険や共済組合に加入していた勤労者以外の人が加入する国民健康保険により、
国民皆保険が実現しました。


 しかし、1961(昭和36)年には強制加入が義務づけられなかった主なグループが2つあります。
勤労者の妻である専業主婦などや学生です。希望すれば国民年金に加入できる任意加入者として残されました。

 任意加入では、加入しなかった人が障害をもったときや離婚したときの保障にかけるため、
基礎年金ができた1985(昭和60)年の改正で、勤労者の妻である専業主婦などは、第3号被保険者として、
強制加入となりました。

 また、最後まで残っていた学生も、1989(平成元)年改正で強制加入に変更になりました。

C 学生納付特例制度


 国民年金の第1号被保険者は、国民皆年金を達成するためのいわば要となっており、
制度の組み立てから無業の人や所得が低い人が加入することになります。


このため、保険料の納付について、全額、3/4、半額、1/4と4段階の保険料免除の制度が設けられています。

 学生については、親に扶養されていることが多く、一般的には本人による収入は少ないことから、
保険料免除制度は適用されず、特別に学生納付特例制度が設けられています。


 学生納付特例制度のポイントは次のとおりです。


@ 学生本人の所得のみで審査します。
  
親や家族の所得の多寡は問いません。学生本人の年間所得が118万円―これは、アルバイトの収入で考えると、
給与所得控除を加味して年収194万円に相当します。―以下であれば対象となります。


A 怪我や病気で障害や死亡といった不慮の事態が発生した場合に、
障害基礎年金・遺族基礎年金を受けることができます。

 公的年金を受給するためには、保険料を納付していることが原則となります。

 障害基礎年金や遺族基礎年金を受給するためには、障害や死亡という不慮の事故が発生した場合に、
それまでの保険料の納付について、 

 a. その事故が発生した月の前々月までの被保険者期間のうち保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が
   3分の2以上ある。

 b. その事故が発生した月の前々月までの1年間に保険料の未納がない。

 のいずれかの要件を満たす必要があります。

 この要件について、学生納付特例制度の承認を受けている期間は、保険料納付済期間と同様に取り扱われますので、万が一のときにも安心です。


B 学生納付特例制度の承認を受けた期間は、将来受ける年金の受給資格期間に算入され、
また、10年以内であれば、保険料の納付(追納)ができます。 


 老齢基礎年金を受けるためには、原則として保険料納付済期間等が25年以上必要ですが、
学生納付特例制度の承認を受けた期間は、この25年以上という老齢基礎年金の受給資格期間に含まれる
ことになります。


 ただし、年金額には反映されません。
 このため、10年間のうちに保険料(3年度目以降は、当時の保険料に一定の額が加算されます。)を
納付(追納)することができる仕組みとなっており、年金額に反映することが可能となっています。 


 このように、学生で国民年金の保険料―月額14,980円(平成24年度)―の納付が困難な場合には、
学生特例納付制度の承認を受けておくことをお勧めします。


 住所地の市(区)役所または町村役場の国民年金担当窓口で手続きができます。

 なお、申請は毎年必要です。


70納付と学生納付特例と未納の違い.jpg




(2)年金額

 平成24年度の年金額は、つぎのとおりになっています。



70老齢基礎年金.jpg




3 につづく


生活創造学部 生活文化学科 教授 吉武民樹





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2012年10月17日

公的年金

地域とともに活躍する川村学園女子大学





現在、年金の問題は、シルバー世代ばかりでなく、むしろ若い人たちにとって大きな関心となっています!

今回は、公的年金について、基本的な知識と、情報をお届けいたします。



公的年金とは




1 公的年金の仕組みと役割

(1) 公的年金の仕組み

@ 賦課方式による世代間扶養の仕組み 

 日本の公的年金は、サラリーマン、自営業者などの現役世代が保険料を支払い、その保険料を財源として
高齢者世代に年金を給付するという「賦課方式」による「世代間扶養」の仕組みとなっています。




70公的年金制度における賦課方式による世代間扶養の仕組み.jpg




 つまり、将来、この負担している現役世代が高齢となったときには、その時代の現役世代が拠出した保険料が
年金に充てられることとなっています。

自分が拠出した保険料が積立金として運用され、将来年金として戻ってくる「積立方式」とは異なっています。




70年金制度における賦課方式と積立方式.jpg




A 長寿化や核家族化の進行と老後の生活

 戦後、経済の発展、生活水準の向上・安定、保健医療の充実等により、
日本人の平均寿命は大幅に伸びてきました。

 65歳での平均余命は、男性で、1947(昭和22)年の10.16歳から2011(平成23)年の18.69歳へ、

女性では、同じ期間に12.22歳から23.66歳へと倍近くに伸び、現役引退後の老後の生活が長くなって
きています。


平均寿命と65歳における平均余命縮小1.jpg




 日本経済の発展は、第1次産業(農業、林業、漁業)から第2次産業(鉱業、建設業、製造業)、
第3次産業(卸売・小売業、サービス業、電気・ガス業、金融・保険業、情報通信業、教育、医療・福祉等)への
大幅なシフトを引き起こしました。


 その結果、農村社会に典型的にみられた高齢者が長男家族や孫と一緒に暮らすという伝統的な3世代同居の家族が
次第に少なくなっていき、高齢者の単身の世帯や高齢者夫婦の世帯が増えてきています。

 1980(昭和55)年には65歳以上の高齢者がいる世帯の50.1%が3世代世帯でしたが、
2010(平成22)年では16.2%にまで縮小しています。逆に高齢者だけの単身世帯や高齢者夫婦のみの世帯は、
1980(昭和55)年の26.9%から2010(平成22)年の54.1%へと、今やその半数以上となってきています。




☆65歳以上の者のいる世帯の世帯構造別構成割合の推移1.jpg





B 私的に行う老親の扶養と社会全体での仕組みでの支え合い

 
  長寿化により平均寿命が大幅に伸び、また、核家族化により高齢期の夫婦だけや高齢者1人だけでの暮らしが増え,
子どもによる私的な扶養や貯蓄等に頼って高齢期の生活を送ることを困難にしています。

 「世代間扶養」は、一人ひとりが私的に行っていた老親の扶養・仕送りを、社会全体の仕組みに広げたものです。

 また、現役世代が生み出す所得の一定割合を、その年々における高齢者世代に再分配するという「賦課方式」の
仕組みをとることにより、物価スライド(物価の変動に応じて年金額を改定すること。物価の上昇に対応でき
安定した年金給付となる利点がある。)によって実質価値を維持した年金を生涯保障するという、
私的な貯蓄では実現が難しい、高齢期の安定的な所得保障を可能にしています。

 世代間扶養の仕組みは、支える側の若い世代にとっても、自分の老親への私的な扶養に伴う経済的負担についての
心配を取り除き、あるいは軽減する役割を果たしています。




C 積立金と賦課方式

  2010年度末、日本の公的年金制度全体で積立金は約170兆円で、老齢年金、遺族年金、障害年金などの
年間給付費総額は約49兆円となっています。(厚生年金基金が代行している部分は含まれていません。)

この積立金は、年金の給付費全体のうち保険料拠出によって賄う分(残りは、国庫負担・公経済負担により賄われます。)の約4.9年分に相当します。

(積立金は、これまでの保険料拠出のいわば貯蓄に相当するものです。積立金には国庫負担による
財源は入っていません。)

 日本の公的年金制度は、例えば、団塊の世代や団塊の世代のジュニアの世代では
年金受給者が増加するといった年金受給者や現役世代の人口構造の変化に、積立金も活用しながら、
基本的には賦課方式で運営していく仕組みとなっています。




(2) 公的年金の役割

@ 高齢者世帯の生活の支え

 2010(平成22)年度末現在、公的年金の受給権者は約3,800万人で、約51.1兆円の年金支給が行われています。

  2011(平成23)年で、高齢者世帯の1世帯あたりの平均所得金額は、307.2万円で、そのうち
公的年金・恩給が約7割(207.4万円、67.5%)となっています。

ちなみに、仕送り・企業年金・個人年金・その他の所得の合計額は、16.7万円、5.4%と小さな割合です。





年金は高齢者世帯の収入の7割cutting縮小.jpg




また、公的年金・恩給が高齢者世帯の総所得に占める割合をみてみると、
約6割の世帯(56.7%)が年金収入だけで生活をしています。




6割の高齢者世帯が年金収入だけで生活cutting縮小.jpg




A 万一の時の障害年金や遺族年金による支え

 公的年金は、高齢になったときの老後の対応だけではなく、病気や怪我で働けなくなったときには、障害年金が、
また、一家の生計を支える方が亡くなったときには、残された家族に遺族年金が支給されます。
 

このように、公的年金制度なしでは、日本の社会は成り立たないほどにその役割は大きくなっています。




2 につづく



生活創造学部  生活文化学科 教授  吉武 民樹





 


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